ローズマダー顔料の歴史と製造方法

ウィンザー&ニュートンの最も誇れる功績のひとつは、時代を経てもなお、独特のローズマダーの色合いを維持し続けていることです。この特徴的な色の製造工程は時代とともに進化してきましたが、その品質と信頼性は変わっていません。ローズマダージェニュインという豊かで優しい色は、ウィンザー&ニュートンのアーチスト・オイルカラーおよびプロフェッショナル・ウォーターカラーのシリーズで、油彩または水彩絵具として使用できます。 私たちは、この鮮やかで繊細なローズレッドの唯一の供給者であることを誇りに思っています。

時代を超えて

 

ローズマダーという言葉は、マダー(Rubia tinctorum)という植物の根から抽出される伝統的なレーキ顔料から作られる色を表す際に最もよく使われます。マダーの根の顔料は、ファラオのツタンカーメンの墓やポンペイ、古代コリントの遺跡から発見されています。中世には、オランダの砂質土壌でよく育つことから、カール大帝がマダー栽培を奨励し、経済の重要な部分を占めるようになりました。1860年代、イギリスで工業化が最高潮に達したとき、マダーの輸入額は125万ポンドと評価されていました。 

第一線で活躍したジョージ・フィールド

 

時間が経っても退色しないマダーやレーキ顔料の製造に最も貢献した人物の一人がジョージ・フィールド(1777-1854)です。フィールドは優れた色彩学者であり、化学者でもありました。1804年には、水に溶けるマダーのエキスを、溶けない固形顔料に変えていました。その結果、マダーレーキと呼ばれるものができました。この顔料は色が長持ちし、絵具として使用することができました。マダーの根から作られた顔料は、ローズからブラウンまでさまざまな色があり、ジョン・コンスタブルやウィリアム・ホルマン・ハントなど、当時の画家たちに愛用されました。

オリジナルプロセスの開発

 

レーキ顔料 は、染料と不溶性物質(アルミニウム水和物やカルシウム硫酸塩など)を混ぜ合わせ、「固定」して作られる顔料です。フィールドは、顔料の品質を向上させる方法について10冊のノートに実験をまとめ、これらのノートは、ウィンザー&ニュートンの共同創設者であるウィリアム・ウィンザーが非常に重要と考え、その多くを買い取りました。

顔料製造のスピード、品質、効率を上げるため、フィールドはレーキの「実験室」を設計し、1809年のノートの1つに示されています。このシステムは、ウィンザー&ニュートンが自社のレーキラボの基礎として使用しました。

アーティストを意識した仕事

 

顔料をアーティストの色彩として適したものにするためには、  色相、色の強さ、明るさ、透明度、耐光性、分散のしやすさなど、一定の品質が必要とされます。これらの大部分は、製造方法が大きく影響します。

化学者にとっては、マダーの天然着色料はルベリトリン酸であり、数種のアントラキノン系色素と単糖類(セルロースや植物由来のもの)の配糖体です。主な染料(着色料)はアリザリン(1,2-ジヒドロキシアントラキノン)とプルプリン(1,2,4-トリヒロキシアントラキノン)です。これらの染料は、1826年にフランスの化学者、ジャン・ジャックス・コランとピエール=ジャン・ロビケ の2人によって発見されました。

透明色であるローズマダー純正品(ナチュラルレッド9)の顔料を製造する当初の工程では、セルロース系(植物性)素材と染料を分離することが重要でした。主な方法は、加水分解発酵法(酵素)と媒染剤抽出法です。

水酸化アルミニウムが最適な透明度を実現したので、 ミョウバンを使って染料を抽出しました。そして、アルカリと化学反応を起こし、沈殿させたものがレーキ顔料です。その際、金属の不純物が入ると色が変わってしまうので、木製の桶や攪拌機が使われました。しかし、意図的に金属塩を加えることで、ブラウンマダーやパープルマダーといった色を製造することができました。 

ウィンザー&ニュートンは、ジョージ・フィールドの3段式をベースにしながらも、2段しか使わず、沈殿スラリーを重力ではなく水頭でフィルターに通過させる方式を採用しました。顔料の最初の濾過はリネンフィルターで行われ、重力を利用して余分な水分を除去しました。また、沈殿工程で生じた可溶性の塩類も除去されました。

多くの沈殿工程と同様に、最も純粋な製品は、今日までウィンザー&ニュートンの秘密となっている工程で作られました。顔料は最後にビームプレスで濾過され、乾燥されます。

本物のマダーとその誇り

 

ローズマダーの生産はその後、最新の生産設備を用いて、よく知られた色合いを維持するようになりました。油彩、水彩どちらの顔料の生産においても、通常、平均13週間かかります。この顔料を製造するために、古今東西、多くの方法が試されました。しかし、フィールドの方法で作られたローズマダーのユニークな特性に匹敵するものはなく、ウィンザー&ニュートンは古くからの伝統の一翼を担っていることを誇りに思っています。